夢の島、あるいは未完の廃墟


東京都の江東区という場所に生まれた。
隅田川の東側に位置する地域である。
「東京生まれ」というのもはばかられる様な無個性な地域である。
ビッグサイトや現代美術館があるものの、「だからどーした」と、
それらに関係のない人間に言われればそれまでである。
「東京」といって思い浮かべるのが一般的にどんな町かといえば、
やはり渋谷、新宿などだろうか。
それらの町は、消費活動における人々の夢や欲望を体現したような、
いかにも東京らしい町である。
それらの町を貫く一本の通りが明治通りである。
そして、渋谷―原宿―新宿―池袋などの繁華街を貫く明治通りの最果てに、
夢の島」というところがある。
ゴミ焼却施設とそこから出された塵芥による埋立地からなる、
東京湾に面したその土地は、今も臨海埋立地の面積を拡大させている。
そうした土地の創出とは反対に、その土地の活用の方向はいまだによくわからない。
東京という大都市で唯一ともいえる、広大な白紙状態の土地が、
夢の島をはじめとする江東区の臨海地区である。
この地には、あらゆる土地利用が可能であるという、
「可能性」や「未来」といった夢のみを担保にして、
都市生活者が出した廃棄物がとめどなく集められる。
そのような、夢を描くことが可能な白紙の人工荒野を掘り返せば、
そこには人々の夢や欲望の残骸が顔を見せる。
「夢の終わり」と「夢の始まり」が同居する場のようでいて、
「夢の始まり」の方向が保留されたまま「夢の終わり」のみが、
「完全なる終わり」を迎える事なくジワリと堆積し増殖していく。
その人工荒野の上空では、海から吹きすさぶ潮風が、
太古の昔から相も変わらずに、せせら笑いと口笛を響かせる。


長々とすみません。
先日、geisai museum2というアート・イベントにて、「佐藤卓賞」という賞を頂きました。http://gm2.geisai.net/gm2/gm2_winner.html
その時の作品に解説的エッセイのようなものとして、上記の文章をプリントアウトして見てくれる人、通り過ぎる人に渡していました。
今になって自分で読みかえすと、geisai批判とも読めてしまい冷や汗をかきますが、書いている時にそんなことを企む余裕など全くありません(イベント当日の早朝ですもん、書いたの)。
かねがね、都市に生活する人々の欲望と、その欲望の行方に興味があります。
それと作品製作に関わりがあるのかどうか、自分でもわかりませんが、特殊な人々よりも、普通に生活する人々の欲望の方が、なぜだかヘナヘナと笑いをともなって、脳髄と腹の奥深いとこに食い込んできます。
AKB48、ヴァネス・ウー、平野綾、彼らのファンのような熱狂的な欲望を、僕がこれから生み出すことができるだろうか。
少なくとも、あの熱狂に少なからず嫉妬してしまった以上はそうしたいことには間違いがない。
じゃあどうやってやんのよって、皆目見当もつきません。