東コレ

笠置シズ子―東京ブギウギ(1947年)


生まれたから、ということを差し引いても、東京という首都?都市?街?町?土地?について、フェティッシュなほどに興味が尽きない。
それは他人に対して明確な論理でもって説明できる類の興味ではなくて、喜怒哀楽とか恋とか、まあ何でも良いけど、要は感情の領域の問題のようで、早い話が「だって、おもろくねー?」としか最終的には言えないのですが。

そんなわけで、東京に関する本が滅法好きでして。


私説東京繁昌記 (ちくま文庫)

私説東京繁昌記 (ちくま文庫)

例えばこの本なんかはいわゆる「東京本」を読み出した初期に出会った作品で、相当なインパクトを僕に与えました。
特に序章「山の手と下町の距離」の最後に書かれた一文には痺れた。
“つまるところ、山の手・下町という区分は、1960年(昭和三十五年)以前の東京を記憶にとどめている人たちにとっては若干の(あるいは、大きな)意味があるが、そうでない者にとっては、ウェストサイド、イーストサイドの違いでしかないようだ。”
皮肉を含んだ言い方ではあると思うけど、1979年生まれの僕も同感で、もはや「下町」という言葉に何の甘美な幻想も抱きようがない。
「下町」とは東京に田舎を見出したい人が生み出し群がる幻想です。
僕としては、いっそのこと「ダウンタウン」とか「ゲットー」と呼んでしまった方がしっくりきます。あ、ゲットーは違うか。
さらに厄介なのが「下町人情」という言葉。
人情って山の手だろうが下町だろうが都会だろうが田舎だろうが外国だろうが、あった方が良いもんでしょ。
そーゆーの下町だけに圧しつけんのどうなのかなあ。



僕は江東区という隅田川の東側に位置するエリアで生まれまして、関東大震災第二次世界大戦東京オリンピックバブル経済によって、常にスクラップ&ビルドされてきた区域です。
とは言え、東京中のほとんどがそうなのです。
ただ、自分の思考の基点としましては、江東区を基準にするのがどうしても自然なので、戦後からバブル経済前の江東区を知りたいのですが、こっれがどマイナーな地域なものですから、残された文献がなかなかありません。
浅草、銀座なんかはたくさんあるんだけどなあって思ってたら、ありました。

大正生まれの俳人の本です。
厳密に言うとここでの「江東」とは、「江東区」のことではなく「隅田川の東側」のこと。
1957年から翌年まで読売新聞江東版に連載されたもので、句と散文で観察・描写された、「粋」とは無関係な辺鄙な川向こうの町々の風景が、それを見てもいない自分に妙に食い込んでくる。
しかし、俳句というものは難しい漢字がいっぱい出てくるなあ。
「櫨(はぜ)」とか「浅蜊(あさり)」とか「砂蚕(ごかい)」とか・・・。
あ、その当時はこんなエンターテイメントがありました。



江利チエミ―ジャズ娘誕生 ♪カモナ・マイ・ハウス エンディング(1957年)

まあ最近になってこの頃を懐かしむ風潮があるのもうなづけます。



このような時代からやがて60年安保があり、東京オリンピック(1964年)、大阪万博(1970年)がやってきて、異常なスピードで都市の様子が変わっていく。
余談ですが、万博って本当は1940年に東京でやる予定だったらしいです。
けれども第二次世界大戦のために流れたとのことです。
戦後の東京において復興を国内外に示す絶好機となった東京オリンピックでは、皇居を中心として主に西側が開発され、1970年の万博においては当初は東京で開催し、その東側を開発しようという動きがあったらしいのです。
そういった戦後の復興事業をはじめとする、都市のありようの側面を描いてみせたのが以下の本です。

磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

最近読んだ本で特に面白かった。
新宿副都心にある都庁の設計者を選定したコンペのドキュメンタリーでもあり、建築家・磯崎新の伝記でもあり、ノンフィクションでありながら小説的な話法だったり、とにかく濃かった。
磯崎氏が「東京」という都市をどのように見たのか、読んだのか。
そのプロセスの一端がうかがえる興味深い内容でした。
1985年末に行われた新都庁舎コンペにおける内実を、その当時の関係者の証言と、磯崎新とその師であり「建築界の天皇」とまで謳われた丹下健三との関係の歴史が、非常に丁寧に描かれています。
さらにそれらの輪郭をより明確にするように、日本の近代建築の歴史を素人が読んでも分かりやすく紐解いている。
結局は師匠の丹下案が通るのですが、その丹下健三が現役最後期に設計したフジテレビの新社屋(完成1996年)は、なんと磯崎氏が新都庁舎コンペに提出した案にそっくりだった、というくだりがとても素敵です。



僕はお台場のフジテレビがオープンする前に自転車で写真を撮りに行ったことがあるのが、自慢にもならない自慢です。
なんにもない水際の土地に出現した変に未来的な建築を見たときは、なんだか興奮してたと思います。

SOUL SCREAM - TOu-KYOu